第68回日文研学術講演会 細川周平先生退任記念講演会(オンライン講演会)
≪講演≫ 細川 周平(国際日本文化研究センター名誉教授)
「チンドンの因縁」
要旨:
大道の物売りはいつでも通行人の注意を引くために、声や音を立てていた。明治半ばになると、物ではなく、情報を売る広告屋が大々的に営業を開始し、耳新しい西洋式の楽隊を利用した。広目屋ともジンタとも呼ばれた。昭和初頭、トーキー化によって解雇された大量の映画館の楽士が、街頭の宣伝業に流れ、主に下町に活動拠点を見出し、チンドン屋と俗称された。たいてい数名の編成で奇抜な衣装を着て宣伝用ののぼりを持ち和洋楽器を奏でて練り歩く。チンドン屋は庶民に親しまれると同時に軽蔑を受けてきた。しかし1980年代より「音楽以下」というより「音楽以外」(「音楽」にあてはまらない演奏)と見直すことが始まった。音楽家でも愛好家でもないし、演奏会でもライブでも芸術でも娯楽でもない。演奏の環境に合わせた別の目的と美学を持った活動に注目が集まっている。
講演では昭和初年の映像や絵画や小説に描かれたチンドン屋を通して、和洋音楽の融合、街頭という演奏空間、商業活動といった面から近代日本の音楽文化を考えてみたい。